江分利満氏の優雅な生活 山口瞳 (ISBN:4101111014)

単にうだつのあがらないサラリーマンの生き様を描いた本なのかといえばそうではない。全然そんなものではない。自分の家族、社内の同僚の観察、父との比較、背景にある戦争あるいは「戦後」というもの。全体を見渡した中で、自分を位置づけている。達観があって、その中でも自分自身の日々の努力があって、とにかくものすごくよく考えられているのだ。
自分を形作る細かなこだわりがある。偏向がある。それをさらけ出すとその先にあるものが見えてくる。時代の感覚が見えてくる。その構図を支えているのは、作者の冷徹かつ温かみのある批評の眼なのだと思う。
それと、この本を原作とした岡本喜八の映画がある。この2人の問題意識が、ここまでドンピシャリ共通しているなんて…。すごい出会いだと思う。